【web読書】『美少女と距離を置く方法』について語ろうと思う。

再度リンクを貼ります。

小説家になろう

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カクヨム

kakuyomu.jp

以下は、Twitterで語ったものを少し手直ししています。

 

まずですね、シチュエーションをひとつひとつ整理していくと、この作品に無駄な場面がひとつもないことが分かります。
ふつう、展開に困ったり、話を膨らませたりするのに、本筋と関係ないエピソードとか入れたくなるじゃないですか?
そういうのがまったくない。
ゴールに向かってまっすぐに、話が進みます。


そして、ひとつのイベントを消化するごとに、友人に相談をしたり、逆に友人からちょっかいを出されたりします。
これは、二人の恋路をけしかけ、強烈なベクトルで物語を前に進めるとともに、読者が直前のイベントをおさらいする場でもあります。
この友人たちがいなかったら、廉と理華はくっついていなかったかも。


無駄な場面を廃する代わりに、話を膨らませているのが「人間関係、人付き合いのあり方」という話題。
廉と理華はこれについて、ことあるごとに語り合います。
くどいくらいに繰り返されるのは、これがこの作品のもうひとつの主軸、メインテーマだからです。
通奏低音のようにこの作品を支えています。


メインキャラクターは本編において5人。サブキャラはちょこちょこ出てきますが、本筋に関わり、フルネームを与えられているのは、シンプルにこの5人だけです。
(アフターストーリーを除く)

この5人という人数にも、ちゃんと物語上の意味があります。
もし気づいてる方がいらっしゃったら、マブダチになりましょう。

 

(ここからネタバレを含みます。気をつけてください)

 一ノ瀬からの告白を、理華がなぜ断ったか。
作中ではひとつの仮説が披露されていますが(アフターストーリーで理華自身も述懐していますが)、私はちょっと違う見方をしています。
すなわち、この時点では、理華はまだ恋に落ちていない、という見方です。


これは、こう考えると分かりやすい。
「もし一ノ瀬と同じタイミングで廉が告白をしたら、理華はイエスと返事しただろうか?」
私はこの時点では、半々くらいの確率で理華は返事を留保しただろうと思うんですよね。
その結果、廉が意気消沈して、二人の関係が壊れた可能性はあり得ると思っています。


一ノ瀬の告白の次点では、理華にとって廉は「とても大事な親友」でした。
親友とは言いますが、理華は「親友か、そうでないか」という付き合い方しかできない子なので、一般的には友達の範疇です。
確かに心の大部分を占めてはいても、それ以上の存在ではなかった。


明確に理華が「落ちた」のは、焼肉屋で失意に沈んでいる中、廉に癒やされた時。
その瞬間に、廉は親友以上の「何か」に昇格していて。
そして、その後の看病で決定的になった。
だから実は、廉が最後の「告白」に臨んだタイミングは、ベストにしてジャストだったと言ってもいい。


さて、仮にそうだとすると、とんでもないスロウスタートなんですよね。
本編66話のうち、該当シチュが始まるのが45話ですからね。
実に3分の2まで進まないと、「恋愛」が始まらなかった。
作者の苦労が目に浮かびます(笑)。


そういう状況で、作者が何を頑張ったかというと。
前半部分においては、理華がいかに美人で可愛くて映えるかを、それはもう数多の表現を駆使して描写しています。
特に男性の読者に対しては、ヒロインを「いかに好きになってもらうか」が重要です。
この点において、いっさいの手抜かりはありません。


と同時にお話を引っ張るのは、前述しました「人間関係、人付き合いのあり方」という話題。
この話題のヤマは43話、48話、そして64話だと思っています。
この頃になると、逆にヒロインを持ち上げる描写はなりを潜めていて。
そのあたりの切り替え、使い分けも巧いところです。


あとは、やっぱり友人たちの煽りがすごいよね。
これがなかったら話が進んでいない感じがします。

 

まぁ助走が長かったぶん、最後はすごいスピードで坂道を転がり落ちていくので、とても盛り上がります。
きれいな終わり方がほんと好き。
あとアフターストーリーのイチャラブも。


私の『美少女と距離を置く方法』作品論は以上です。


個人的には、日本一の『距離置き』評論家になりたい。
もしこの作品が映画化でもして、日本中が涙することになったら、コメンテーターとしてテレビに出たい。