【読書】『少女願うに、この世界は壊すべき』

『少女願うに、この世界は壊すべき』

著:小林湖底/刊:KADOKAWA電撃文庫

昨年の電撃小説大賞<銀賞>受賞作ですね。

率直に言うけど、よく分からなかった。

 

この作者さんは、GA文庫から先に刊行された『ひきこまり吸血姫の悶々』と同じ方。

ひきこまり吸血姫の悶々 (GA文庫)

ひきこまり吸血姫の悶々 (GA文庫)

 

こちらもGA文庫大賞の<優秀賞>を受賞しており、同時期にダブル受賞ということで話題になっていたよね。

 

『ひきこまり~』はお話としてはコンパクトで、世界設定も奇抜なものではないけれど、「いじめ」「ひきこもり」といったテーマをうまくファンタジー世界に溶け込ませつつ、前半はコミカル、後半は胸アツのバトルをしっかり描いていて、ラノベとしてそつなくまとまっているいい作品だった。

だから決して才能のない作家さんではない。

そのあとがきで、小説を書き始めたきっかけが中国史にあり、当初は中華ファンタジーや歴史ものを主としていたこと、自身のペンネームの由来が始皇帝にあることを語っておられたので、いつかはそういうのも見てみたいなとひそかに思っていた。

 

今回の『少女願うに~』は一転してオリエンタルファンタジーだったから、俄然興味がわいた。

ただ、副題にある「桃源郷」、また帯に書かれたキーワード「五彩の覇者である聖仙」などの語句から、もうちょっと中華寄りの世界観かなと思っていたことは、正直に述べておきたい。

 

そんな予断も、序章でいきなり覆されることになる。

古代日本と古代中国を混ぜ合わせたような、独特のオリエンタルな世界。

しかもそれが、遠い未来の日本であることが、冒頭から明かされる。

ハイファンなのかローファンなのか、いやそんなこたぁどうだっていい! とのっけからテンションマックス。

 

集合文化意識とか、OLI因子とか、世界を決定づける設定がどれもいい。

漢文の素養に裏打ちされた、異世界感をしっかりと出してくる文体・語彙もとてもいい。

そして、作中で描き出される情景(ヴィジョン)はどれもファンタジーにふさわしいもので、陶然となる。

めちゃくちゃ好みなんですよこの作品。

 

ところが、読み進めていくと、話の流れがよく分からない。

メインヒロインである妖狐の因子をもつ少女が、迫害のすえにこの世を呪い、村の守り神と言い伝えられた最強の聖仙を永き眠りから目醒めさせる。

その力を借りて、村を襲う天颶を撃退し、村人たちから今度は畏怖をもって受け入れられる。

しかし、それでまるっと解決とはいかなかった。

聖仙に絡みついた古くからの因縁、ヒロインの妹である村の巫女の病態、そして村の真の存在理由……。

すべてが明らかになったとき、悲劇の幕が上がる。

聖仙は、妖狐は、いかにそれに挑むのか――。

といった感じで、あらすじを語ることはできる。


ただ、細かい部分では、何がどうなっているのかいまいち把握できない。

特に後半のバトル。

やられたと思ったらやられてなかったり、倒したと思ったら倒してなかったり。

もしかしたらそういう世界観なのかもしれないが、なんかすっきりしない展開が続く。


主人公たる最強の聖仙が、何ができて何ができないのか。

どんな風に強くて、実はどんな弱点があって、それをどんなロジックで乗り越えるのか。

ヒロインの妖狐の少女もまたしかり。

このあたりがざっくりしたまま話が進むので、敵として対峙した相手にも強大さを感じにくい。


受賞時の選評を見てみたくなったので探したけど、

http://dengekitaisho.jp/archive/26/novel4.html

「光るものはあるんだけど、惜しい」という評価が多いのかな。

「敵がしょぼい」という意見もあるようだけど、私は本来であれば寿老人、弁財天の二名は難敵のはずだったと思うので、結局は描き方かなぁと。


それでも、この作品を世に出したい、と思った編集部、そして選者の方の気持ちはとても分かる。

ワクワクさせてくれる要素は間違いなくある。

続編が出るなら読んでみたいし、この素材をどう料理してゆくのか、注目はしておきたい。

そして作者さんの次の作品にも期待を。